離婚後、母は働き出した。
まだ祖父も現役で働いていたので経済的に苦しくはなかった。母と私の休日が合うことはなかったけど、私は祖父母が大好きだったし私にたくさんの愛情を注いでくれたので寂しいとは思わなかった。ある日、母が「久しぶりに出かけよう」と誘ってきたので素直についていった。電車から見える風景は何度も見たことがある。それはそうだ。行き先はかつて私たち親子が住んでいた街だったからだ。
ところが訪問した先は以前の住まいから少し離れただけの父の男友達の家だった。その一瞬で悟ってしまった私。母の家出に関わった人。母は父の友人と付き合っていた。その人は独身だったのでそこは一つの救いだったのかも。
夜遅くまで滞在して帰ったときに祖父母に聞かれても「楽しかった」とだけ答えよう。このことは黙っていないとダメなんだと一切を心の中にしまった。母はすでに母ではなく女になっていた。
その後、祖父母の猛烈な反対にあい、母はその人と別れたようだ。