母は花屋を営みながら夜、近所の個人経営のスナックでアルバイトとして働き出した。
祖父母はあまり良い顔をしなかったが、働くことで気持ちが安定するならと黙認していた。田舎街のスナックで客も隣近所の人たちがせいぜいと言う小さな店だった。
母は楽しそうだった。それでいい。穏やかに暮らせることが一番だから。
ところが、母はまた波風を立てた。
一回り以上年下の妻帯者を彼氏に持ち、祖父母の目の届かないことを良いことに帰りが午前様になったり、しまいには閉店後、離れの家へ連れ込んできた。2DKの部屋では否応なしに私にはわかる。私には口うるさいくせに自分は好き放題。男への依存。怒りしかなかった。
しかし、私は不満を口にだしたりはしなかった。揉め事が嫌だったこともあるが母に対して何かを口にするのが怖かったのかもしれない。それは母が怖いと言うことではない。
目に見えないものが崩れていくように思えて自分の素直な気持ちを出すことができなくなっていた。