「家出」の意味もわからず、母がいなくなった、どこかへ行ってしまったと言う認識しかなかったように思う。それが何故なのかも深く考えられなかった。ただ、母のことは父を始め回りの大人に聞いてはいけない、絶対に口にしてはいけないと思ってた。そんなある日、無言電話がかかってきた。それはしばらくの間続いた。薄気味悪さなどなく、きっと母だろうと思って「お母さん?」と呼んでみた。母だった。それから母の都合に合わせて会うようになった。いつも公園で待ち合わせて銭湯に行って帰る。たったそれだけ。
帰り際には何と言って良いのかわからず二、三回手を振って前を向き振り返らず自転車をこぐ。母に会ってることは父には言えなかった。父は仕事があっても必ず食事はもちろん、おやつまで作ってくれた。そんな父に母のこと言えなかった。
そして私が小学3年生1学期終業の日、私は母に連れられ母の実家に行った。